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『ゆリマスター感想&イラストコンテスト』感想部門 優勝賞品SS公開!

たいへん長らくお待たせし、申し訳ございません。
2019年の8月1日から8月19日まで実施いたしておりました
「Twitter感想コン」の感想部門 優勝賞品SSを本日公開いたします!

感想部門優勝者 おこげ様よりご要望の……「ほのかとさき」のお話です!
見た目はおねロリ、ふたりは大人。さきとほのかがふたりきりで一晩を共にしたら……
な作品となっております♪

今作品には“ネタバレ”が含まれております。
ゆリマスターを未プレイの方は、クリア後に是非お楽しみください!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「ゆリマスター」感想コンテスト賞品SS  向坂氷緒(遅くなってごめんなさい!)

 ――これは運命が動きだす、前夜のお話――

          *****

 いつだって、無限堂さきと醍醐ほのかの間には、“彼女”がいた。

「こんばんー。あ、やっぱり、さきちゃん起きてた」
 0時を回った深夜。
 ユリイカソフト社長、醍醐ほのかが酔ってない状態で真夜中のオフィスを訪れるのは珍しいことだった。
 いや、珍しいなどという表現すら合っていないかもしれない。さきが記憶するかぎり、初めてのことだ。
 オフィスは暗い。光源は、さきが向かっている自席のパソコンのディスプレイの明かりだけだ。
 ほのかが来るまで一人きりだったオフィスで、なお外界を遮断するようにゴツいヘッドフォンを装着し、
 さきは画面に向かっていた。
 表示されているのは大手動画投稿サイト。“だらだらと”としか言いようがない態度で眺めている。
 会社に泊まりこみ……というか住むようになって一年、か、それ以上。
 もうずっと、日中寝て、夜起きだして無為に過ごす、そんな生活を続けている。
「まーた、『よーちゅーぶ』見てる。飽きないわねー」
 間近まで来た、ほのかが画面を覗きこんで、呆れたように感心したように言った。
 さきは、ほのかの存在に気づいていないように、声が聞こえていないように、画面を見続けている。
 だが、そんなさきの態度にも、ほのかは慣れたように気にせず呑気に喋り続ける。
「こころちゃん、怒ってたわよー。『あんなタダ飯食らいに、いつまで給料払ってるんだ』って」
 さきは無視。
「今日、プロットの〆切だったんだって? 私も、もう忘れちゃったけどね、何度目の〆切破りか」
 さきは無視。
「むしろ、こころちゃんがすごいわね、何度破られても新しく〆切設定して、守らせようとするんだから」
 さきは無視。
「ディレクターの鑑ね、ふふ」
 さきは無視……いや、小さく「ちっ」と舌打ちだけをした。さきは元来、耳がいい。
 それを見てか、ほのかの口元に、くすっとかすかに笑みが浮かぶ。さきは、また沈黙。
 パソコンの画面にだけ視線を注ぎ、内容の薄い再生回数三桁にも満たない動画を無感情に眺めている。
 そもそも、さきは、ほのかが立ち上げたこの会社に所属する気などなかった。
 なかば謀略、ほとんど陰謀、罠にハメられるようにして社員となる道に乗せられた。
 そのときも「必ず書く、なんて約束しないわよ」と最後まで抵抗した。
 新作のシナリオ。正確には、リメイク作品への追加シナリオ。
『ニエと魔女と世界の焉わり』という名の。元・同人ゲームの。

 続きを書く気なんて、なかった。
 書けるとも思っていなかった。
 書く資格があるとも思えなかった。

「新しく、人を入れるわ。『ニエ魔女』チームにね」
 ほのかの言葉に、さきは反応しない。
 ――好きにすればいい、自分には関係ない、と思っているのがありありとわかる態度だ。
 かまわず、ほのかは続けた。ちょっと悪戯っぽい、さきの態度を楽しんでいるような口調で、
「帝都じゃなくて地方在住だから、明日、会いに行ってくるわ。二つ上だそうよ。名前は大鳥あいちゃん。
 ――こころちゃんのお姉さん、ね」
 はぁ? と、さきの口が動いた。だが、まだ視線がほのかに向くことはなく、ヘッドフォンが外されることもない。
「ゲーム制作に関しちゃ、なんにも知らない、ずぶの素人らしいんだけど」
 ぴくり、と、さきの眉が動く。ぴくぴくと、苛立ちを募らせるように、眉が動き続ける。
 そんなさきに、ほのかは楽しげに、トドメを放つように言った。

「そうね、…………ニエに似てるらしいわよ、あいちゃん」

 一瞬。
 燃えるような怒気がさきの小柄な体を包んだが、それはすぐに消えた。
 やがて、はぁぁぁぁぁ……、と面倒くさげなため息と共に、さきはのろのろとヘッドフォンを外し、
 ほのかへ視線を向ける。
「あに言ってんのよ? ほのか」
「“あに”って? ん?」
 とぼけた様子で、ほのかは聞き返す。苛立ちを隠しもせず、さきは舌打ち。
「別に。好きにすればいいわ。あなたは社長だし、わたしには関係ないし」
「あれ、興味ない? ニエに似てる女の子、なんて」
「ない。そもそもポンコツDの言うことなんて、アテになるかどうか」
「信頼度ないのねー、こころちゃん」
「あるわけない。ただ、わたしの中で一番の悪党は、ほのかに決まってるから。心配しなくていいわ。むしろ被害者でしょ、ポンコツD」
「そう思ってるなら、もうちょっと優しくしてあげたらいいのに」
「知らん。変わらん」
 ぶすっと、さきは吐き捨てる。腕を組み、眉間にシワを寄せ、小さな体で全力で『うざい話を聞かせるな』と主張している。
 だが、そんなさきにも、ほのかはどこ吹く風と、
「ニエは……“あの子”が考えたキャラで、あの子が『自分がこうだったらいいのに』と憧れてた女の子よ。そんな子が現実にいるなら――」
「会ってどうするの。ましてや会社に入れる、なんて」
 さきは眼差しを鋭くして、
「ミサキの代わりにでもするつもり?」

 深夜のオフィスに静寂がおりた。冷たく、固い。

 ミサキ。
 同人版『ニエ魔女』の実質的な原作者(と、さきは考えている)であり、ほのかの妹にして、
 ほのかを『ニエ魔女』制作に引っぱりこんだ人物……少女。
 すでに、この世にはいない。
 さきの問いかけに、ほのかは答えない。黙って、さきを見返している。さきも無言。
 ただ、眼差しの険しさだけは、ゆるめずに。
「誰にとって、というのが問題かしらね。その場合」
 淡々と。
 でも、どこか面白がっているような口調で、ほのかは言う。さきの眉間のシワが深くなる。
 これだから、この女は嫌いだ――そう考えている顔だ。

 いつからだろう?

 思い返すまでもない。ミサキが健在だった頃、さきとほのかの間には、いつだってミサキがいた。
 ミサキの存在感のなせるわざか、常に会話はミサキが中心で、さきとほのかの意思疎通も、
 ミサキを挟んで行われることがほとんどだった。
 さきはほのかの有能さ、人脈の豊富さをアテにはしたが本人への興味はさしてなく、ほのかも、
 さきを妹のミサキに無理やりゲーム作りに巻きこまれた文章書き、くらいにしか思っていなかった。
 ゲームが完成すれば。
 もっと正確に言うなら、ミサキがゲーム作りに満足しさえすれば。
 座組みは解散し、もう会うこともない。その程度の。

 ……ミサキを抜きにして。
 ミサキがいなくなっても。
 それでも、まだ付き合いが続くなどと思ってもいなかった。
 続くわけのない関係、そのはずだった。

 突然、ほのかが『ニエ魔女』を商業版として作り直し世に出そうと思う、とさきの元を訪れるまでは。
 ほのかに言わせれば、突然でもなんでもない、という話だったが。
 社交性が高く、万能型のほのかと、社交性皆無にして物語づくりしかできない、さき。
 波長が合わない、相性がよくないことは、きっと、まちがいなく、お互いが一番自覚していた
 (さきは自覚していたし、ほのかもだろうと、さきは確信していた)。
 それがまた、ミサキを抜きにして、ひとつの作品を。
 ゲームを作るために、組んでいる。
“ミサキはもういないのに”
 なぜ? 言葉で説明するなら、ほのかにうまく丸め込まれて、としか言えない。
 さきは自身を猜疑心も警戒心も強いタイプと思っていたが、気づけば、ほのかが立ち上げたゲーム会社の社属となっていた。
 そして、会社暮らしをもう一年以上続けている。ゲーム制作は、ろくに進まないまま。
「ユリイカになんて、入らなければよかった」
「そ? 私は喜んでるけど」
「やっぱり、わたしはあなたが大嫌いよ、ほのか」
「嬉しいわね。下々の者に好かれるようなリーダーなんて腑抜けでしかないわ」
「歪んでる。滅びろ」
「ふふ、そのときは一緒よ、さきちゃん」
「ごめんだわ」
 冷たく拒絶した。つくづく自分とこの社長の間に、友情だとか仲間意識だとか、連帯感だとか、
 そう言ったものは1ミリも存在しない、と思う。愛情? そんなもの言うに及ばずだ。

 ―――わたしにとっても、ほのかにとっても、大事なのはミサキでしかない。

「…………なんで、わたしなんか呼んだのよ」
「必要だと思ったからよ」
「もっと、使える駒、使いやすい駒、あなたならいくらでも持ってるでしょ」
「もちろん。使える、使いやすいだけじゃないわ。さきちゃんより良いものを書くライターだって、私は知ってるもの。さきちゃんはそうね、中の上、いえ、おまけして上の下ってとこかしら」
「天才がごろごろしてる世界だものね、そりゃ」

 オフィスの時計は、深夜一時をさしていた。

「何事も面白いか、面白くないか、よ」
 ぽんと放り投げるように、ほのかが言った。
 私にとってはね、と。
 さきは不満、不平、不服、それらぜんぶを言葉に混ぜこんで、
「ミサキに頼まれたんじゃないの。わたしに書かせろって。そう説明された気がするけど、誘われたとき」
「そうだったかしら。そうだったかも? んー忘れちゃった♪」
「ふざけんな。くそが」
 吐き捨てた。
 ………きっと、自分達は、いつになっても、いつまでたっても、かけがえのない友や、許しあえる仲間や、思いやりを持って接しあう大切な人同士になんて、なれないと確信できる。
 けれど。
「大鳥あいちゃん」
 ほのかが呼んだ。
「こころちゃんのお姉さん、ニエっぽいーらしい、その子にはね、ちょっと……犠牲になってもらおうと思って。商業版『ニエ魔女』のために」
 さらっと言う、ほのか。
「ダメ元よ。まぁ、私もそれほど期待してないわ」
 さらっと言う、ほのか。
「まさしく“贄”ね。もしかして、さきちゃんにとってミサキの代わりになってくれたら、万々歳……ってとこ? 好きにしちゃってくれていいわ。ほしくなったら、さきちゃんにあげる。格安で」
「女衒か。極悪人」
「わーい、誉めらりたー」
 誉めてない、とさきは呆れる。

 ――ああ、けれど。

 ――今のところ、これっぽっちも書けそうな気なんてしないけれど。『ニエ魔女』の追加シナリオ。もし、書けるとしたら。

 ――こいつの下でしかありえないだろうな――……

 さきは。
 そんなふうに思っている自分にも、気づいていた。
 ミサキがいない、この世界で。
「ふん。……面白いやつだったらいいわね、その……なんとか、あいって子」
 たいして期待はできないけど、と、さきはほのかと同じことを思いながら、言った。
 ほのかは「期待しましょ」と先ほどと真逆の答え。呆れるばかりのさきに、もはや言えるのは、これだけだった。

「くそが。寝るわ」

 おやすみなさい、と、涼やかに笑うほのか。今夜の用事は今の話を伝えるだけだったらしい。さきは机の下に潜りこむ。自分の寝床。恐竜の巣に。
 ……んじゃ飲みいこーっと、という、ほのかの声が遠ざかる。
 ふん、とさきは鼻息をひとつ漏らした。

          *****

 運命が動きだすのは、それから、すぐのことで――

 
 
 
 
 
 
(終わり)